外伝  第2話   ウインドコロニーの惨劇(後編)



 ウインドコロニーに地元のゾイド乗りが大勢集結している事を知った帝国軍治安部隊は、当初の予定通りウインドコロニーの制圧を決定した。

 この治安維持部隊は帝国の正規軍によるものではなく、P.K.所属の部隊、通称ローラーエレファンツと呼ばれる部隊であった。

 元来P.K.は現帝国宰相プロイツェンが組織した国内の不穏分子を摘発するための組織である。プロイツェンの権限が増すにしたがって組織が巨大化し、現在では本来の任務を担当するP.K.警察部、式典でのデモンストレーションや重要拠点の防衛、敵拠点への特別攻撃等を任務とするP.K.師団、そして来るべき戦争に備え、占領地域の治安維持を担当するP.K.保安部の大きく3つに分けられていた。

 また、P.K.師団に専用のアイアンコングやハンマーロックが配備されていて別名鉄人兵団の異名を持っているように、保安部にもツインホーン、そしてこの部署専用に開発された大型ゾイド、エレファンダーが配備され、こちらも巨象兵団の異名を持っていた。

 ただ、P.K.保安部は他の部署と異なり、前線に近い所で治安活動するという任務のため、エリートぞろいのP.K.の中では最も異質な存在であった。また、彼らのやりかたの酷さは帝国軍内部でも知れ渡っており、それゆえ人気も低く、正規軍からも嫌われていた。事実この部署に配属される事を喜ぶのは、帝国の正義を狂信的に奉じる人物、もしくは偏屈な人物に限られていた。


 ウインドコロニーに集結したゾイドは約50機、そのほとんどはコマンドゾイドやニクス大陸や中央大陸ではとっくの昔に第一線を退いた旧式のグランチュラやスパイカー、南エウロペ紛争で数多く出回ったSSゾイド、ディマンティスなどが中心で、カノントータスやマルダーのような砲撃型、コマンドウルフやステルスバイパーのような中型ゾイドはほとんどいなかった。

「ほう、あんなオモチャで我々を迎え撃とうというのか。まあ、この地の蛮族共など所詮その程度が関の山か。演習がてらに踏み潰してやるとするか。」

 治安部隊ローラーエレファンツを指揮するバグス少佐は敵の戦力を眼にして、満面の笑みを浮かべた。彼の乗機は配備されたばかりの新型ゾイドエレファンダー、しかも指揮官専用にカスタマイズされたコマンダータイプであった。前回の「実戦テスト」でも十分な活躍をしてくれただけにバグスは上機嫌で乗り込んだのだった。

 彼は進んでこの部署に志願した「変わり者」の一人だった。彼は腕が立つのだが、最前線任務を好まなかった。それよりも自分よりも弱い相手をなぶり倒す事を至上の喜びとする人物だった。そんな彼にとってこの任務は正に願ってもいないものだったのである。


「諸君!あの者どもは我らが帝国に逆らうおろかな蛮族である。かのような連中にかける情けなどもとよりない。全員私に続け!奴らを蹴散らし、踏み潰し、蹂躙しつくすのだ!」

 バグスの号令と共にローラーエレファンツは突撃を開始した。

「まだだ!もっと引き付けてから攻撃しろ!」

 今にも飛び出しそうなゾイド乗りたちをダンは抑えた。相手は大型ゾイドを主体としている。それを相手に遠くから攻撃を仕掛けた所で効果はない。できる限り引き付けて攻撃したほうが効果は望める。それに仕掛けておいた罠を自分たちで破壊してしまっては何も意味がない。

 先頭を進むツインホーンが大きく空へ跳ね飛ばされた。早速仕掛けられた地雷を踏んでしまったのだった。それを見た自警団からは歓声があがった。だが、帝国軍はそれを無視して突き進んでいた。

「小癪な連中だ。だがその程度の仕掛けでこちらが怯むとでも思っているのか!」

 エレファンダーが先頭をツインホーンに変わって突き進んだ。次々と地面が爆発し、辺りはたちまち轟音と砂塵に包まれた。再び自警団から歓声があがった。だが、ダンを始めとするベテラン達の表情は厳しいままだった。

「駄目だ。奴等の大型にはまるで効果が見られん。」

 ダンがそう呟くと同時に、地雷原の先から巨象が姿を現した。まるで損傷らしいものが見られなかった。同時に歓声も止んだ。


 猛然と砂煙を上げ地雷を踏んでもまったくの無傷のゾイド、正に帝国軍そのものを象徴するようであった。だが、このまま引き下がったままではない。帝国軍を十分な距離に捕らえた彼らは、ついに攻撃を開始したのだった。


 だが、戦局は一方的だった。自警団は小回りを生かして小型ゾイドを中心に攻撃を仕掛けるが、エレファンダーにはまったく損傷すら与えられなかった。その彼らに対して護衛のツインホーンは正確な射撃を与えて次々と撃破していった。

 戦闘が開始されて1時間も経つころには、自警団のゾイド乗りたちはそのほとんどを打ち倒され、残っていたのはダンのコマンドウルフとわずかな人数だけだった。

「もはや敵の隊長機を打ち倒すしか帝国軍を退かせる方法はない!」


 その様子を遺跡の洞窟から見ていたバンはいてもたってもいられなかった。この辺りの地形は知り尽くしていた。洞窟の場所を悟られずにガイサックが村まで行ける砂の下の道筋までわかっていたバンは、レオン神父やマリアが止めるのも聞かずにレオン神父のガイサックに飛び乗った。

「父ちゃんはオレが助けるんだ!頼むガイサック、付き合ってくれ!」

 ガイサックは戦場の方向と反対側に飛び出した。帝国軍にこの洞窟の場所を悟られないようにするためだった。それを必死で止めようと飛び出すレオン神父とマリア。だが、ガイサックは廃墟の中に飛び込むとそのまま地下へ潜っていってしまったのだった。


 ダンのコマンドウルフは、狙いをバグスのエレファンダーに定めると、敵の攻撃を巧にかわしつつ突撃をかけた。残っていたカノントータスとマルダーはダンを援護するために最後の攻撃をかけた、だが!

「そんな攻撃がこのエレファンダーに効くかよ!」

 光の壁が現れると、エレファンダーへの砲撃を全て弾いた。

「あの化物はE(エネルギー)シールドまで装備しているのか!?」

 驚くダン、その直後砲撃を掛けた2機は反撃を受けて沈黙した。もはや残されたゾイドはダンのコマンドウルフだけだった。

「ジーク、すまん。一緒に付き合ってもらうぞ!」


 ダンは一度、南エウロペでの戦闘でレッドホーンを撃破した事があった。それを可能としたのはラグナファングという技である。コマンドウルフのエレクトリックファングの出力を本体がオーバーヒートする寸前にまで高めて、敵の急所を攻撃する技である。無論長時間の使用を行えば、コマンドウルフもろともに自爆する危険性をはらんでいた。まさに最後の手段である。

 コマンドウルフは全力でバグスめがけて飛び込んだ。Eシールドの壁に阻まれウルフの全身が焼け付いていく。だが、わずかではあるが確実にウルフはEシールドの壁を突き破ろうとしていた。

「このコマンドウルフは正気か!?ええい、離れろ!離れろぉ!」

 轟音を立てて、ついにEシールドはショートした。コクピットめがけて跳びかかるウルフを鼻を振り回してバグスは払おうとした。その時だった。

「父ちゃあ〜ん!」

 地面からバンのガイサックが飛び出し、テールビームガンをエレファンダーのキャノピーに直撃させた。一時的に視界を失ったエレファンダーのコクピットめがけて、ついにコマンドウルフが食いついた。

「バン!村のみんなを、マリアを頼んだぞ!!」
 その瞬間エレファンダーについにラグナファングが炸裂した。だが機体全体の損傷が激しかったコマンドウルフがこの技に耐えることはできなかった。バグスのエレファンダーもろともにダンと愛機は大爆発を起こしたのだった。


 目の前で起こった、信じられない出来事にバンはただ呆然としていた。信じられるわけがなかった。絶対に負けるはずがないと信じていた父親、その愛機が目の前で砕け散ったからだ。

「う、うわぁぁぁぁぁ・・・・・・!!」

 バンはようやく理解した。父親が直前に叫んだ言葉の意味を。遺言だったのだ。


 だが、爆炎の中から現れたのは、鼻と牙が吹き飛び、頭部が焼け爛れながらもいまだ健在のバグスのエレファンダーであった。

「こんのぉ虫けらがぁ!よくもぉ、よくもぉ!!」

 彼は視界に真っ先に飛び込んできたバンのガイサックを何度も何度も力まかせに踏みつけた。小型ゾイドのガイサックにエレファンダーの攻撃が耐えられるはずもなかった。たちまち足がちぎれ、尾もへし折れ、キャノピーは打ち砕かれた。さらに狂乱したバグスはあたり構わず背中のミサイルランチャーを乱射した。デタラメに撃ち出されたミサイルはウインドコロニーを、自軍を直撃していった。

 エレファンダーに踏みつけられながらもかろうじて軽傷だったバンはうっすらと目を開けた。彼の目に映ったのは打ち砕かれたゾイドたち、散乱したゾイド乗り。そして業火に焼かれるウインドコロニーであった。

 何もできなかった、目の前で父を殺され、そして村も守る事ができなかった彼は絶望感に襲われた。

「・・・・・・!?」

 エレファンダーから放たれたミサイルの1発が信じられない方向へ向けて飛んでいくのをバンは見た。ミサイルが飛んでいった方向、そこには村人たちが避難していた遺跡の洞窟があるところだったのだ。

「!・・・・・!!」

 もはや声にならない声でバンは叫んでいた。だが無情にもミサイルは遺跡の洞窟を直撃した。たちまち天を突くような土煙が立ち上る。そして遺跡は轟音を立てて崩れ落ちていった。

 薄れゆく意識の中、バンの目にはその光景がスローモーションのように映っていた。

「どうやらあの方向に蛮族どもが逃げ込んでいたようだな・・・・。」

 バグスは狂気の笑みを浮かべていた。

「蛮族どもの駆除は完了した、直ちに引き上げるぞ!」

 ウインドコロニーは正に見せしめであった。この話を聞いた部族たちは恐れをなして次々と降伏するだろう。これがP.K.保安部のやりかたであった。


 全てが死に絶えたと思われたウインドコロニー、そこに現れた一団があった。

 ダンの呼びかけに応じたものの到着が遅れてしまった、砂漠の遊牧民の砂族、その戦闘集団である砂塵の牙である。

 彼らは生存者をくまなく探し回った。しかし生存者は偶然遺跡の外にでていた二人を除いて見つからず、ほとんど全てのゾイドの生命核は停止していた。だがそのゾイドの死骸の山からかろうじて生きているゾイド、そして生存者が発見されたのである。それは少年と彼が搭乗していた水色のガイサックであった・・・・。



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