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外伝 第1話
嵐の前触れ(前編)
神聖ガイロス帝国軍とヘリック連邦軍が北エウロペ大陸西部で戦闘を続けていたZAC2098年10月、北エウロペ大陸西部、ニザム高地とレッドラストのほぼ中間にあるオアシスの村、ウインドコロニーでは東部地域での激しい戦闘をよそに、まったく平穏な日常が営まれていた。
「父さ〜ん。バンを見なかったぁ〜?」
一人の少女が父親に呼びかけていた。
「バンの奴め、この間成人式を迎えてからというもの自分用のゾイドばかり探し回りおって。あいつそんなに自分のゾイドが欲しいのか。」
「まあ、無理もないか。俺もあの年頃には相棒欲しさにこの辺りを駆けずり回ったものだ。今日のところは見逃してやるとするか。」
その父親は呼びかける娘ににこやかに手を振るだけだった。
「まったく、父さんまであんな調子でどうするのよ。いくらバンがこの間成人したからっていったって、収穫祭の手伝いをやらなくていいわけじゃないんだから。帰ってきたらきっちりしからなきゃ。」
収穫を終えたこの村では、収穫を神々に感謝する祭りを1週間後に控え、特に忙しい次期であった。
その頃、その話題の渦中の少年は、ホバーボードに乗って砂漠を駆け回っていた。目的地は廃墟となっていた遺跡群。自らの愛機を捕獲するために張った罠の確認に向かっていたのだった。
罠を仕掛けてから一月ばかり。辺りをうろつく野生ゾイドや野良ゾイドはいることはいるのだが、毎日見に来てみてもなかなか引っ掛かってくれているゾイドはなかった。
その日、少年はいつもと違う空気を感じていた。今日は何かが掛かっている、何故かそう感じるのだ。罠を仕掛けた所まで近づいた時、予感は実感に変わった。自分の張った罠に水色のガイサックが掛かっていたのだ。
「よおっしゃぁ!やっと1体捕まえたぜ。所々ケガしているみたいだけど修理すれば問題なさそうだし・・・・。」
その時、少年はあることに気が付いた。コクピットに誰か乗っているらしかったのだ。
「だぁぁぁぁ、よりにもよって人が乗っていたゾイドを捕まえちまったなんて、どう謝ったらいいんだよ。」
慌てて少年はガイサックに近づくと、すぐさま罠を解除した。すぐさま人が飛び降りてくると思って彼は身構えていたが、様子がおかしかった。降りてくる気配がまるでなかったのだ。
いぶかしがった少年がコクピットを覗くと、中で神父の服装をしたパイロットが頭から血を流して倒れていた。それを見た少年は急いでコクピットのキャノピーを開いてその人物に駆け寄った。
「おい、あんたしっかりしろよ。もしかしてこの罠で頭をぶつけちまったのか!?」
その声を聞いた神父らしき青年はゆっくりと顔をあげた。
「子供ですか・・・・。」
すぐさま少年は、オレは子供じゃない、もう大人だ!と言おうとしたが、青年の安堵しきった表情を見て、その言葉を飲み込んだ。
「神よ、本当に感謝します。善良な少年が哀れな私を見つけてくださいました。子供が見つけてくれたと言う事は、この近くに村があるということなのですね・・・・。」
「ああ、オレの村、ウインドコロニーはここから後少しだよ。神父さま、手当てをするからじっとしていてくれないかい?」
「いえ、ウインドコロニーに少しでも早くたどり着いて伝えなければならないことがあるのです。ですが今の私はとてもこのガイサック君を運転できそうにありません。すみませんが、村まで連れて行ってもらえませんか・・・・。」
「わかったよ、村まで連れて行くよ。すまないガイサック!しばらく言う事を聞いてくれ!」
バン少年が連れ帰った人物は隣村の神父で、隣村からの手紙を託されていた。戦闘によって損傷を受けたと思われるガイサックに乗っていたところから、容易ならざる事態である事を察した村長は、渡された手紙を読むと顔色を変えて、村中の男たちを集合させたのだった。
突然の集合命令に驚く村人たち。村中の男たちが厳しい顔をして集まる中、バンは一人大人の男たちだけが集まる事のできる会議に呼ばれた事が嬉しかったのだった。そんな息子を戒めるように彼の父親は息子の頭をげんこつでこづいた。
「いってぇ〜、何するんだよ父ちゃん。何もげんこつはないだろう。」
「まったく、お前の顔がにやけすぎていたからだ。お前が連れてきた神父様のケガや、乗ってこられたガイサックの損傷を見ても、隣村で何か大変な事が起こったのは間違いない。」
「それに今、この大陸ではニクスの帝国軍とデルボイの連邦軍が戦争をはじめたという話も耳にしたし、この間はオリンポス山が爆発したという話も聞いた。もしかしたらこの村もその戦争に巻き込まれるかもしれんのだぞ。」
「だけど父ちゃんが相棒のジークに乗って戦えば、どんな奴らだって尻尾を巻いて逃げちまうだろ。」
バンの父親は村で一番、いや北エウロペ大陸でも比肩する者のないウルフ乗りとして知られていたダン・フライハイトであった。
若い頃は南エウロペ大陸での戦いに参加し、愛機のコマンドウルフを駆り、多くの敵ゾイドを撃破したことで名を馳せ、特にウルフの牙だけでレッドホーンを仕留めた事は逸話として語り継がれていた。バンはこの父親を誇りにしていた。
「馬鹿を言うな、さすがのオレでも大勢の軍隊が相手だと勝てるかどうかわからんぞ。」
笑顔で息子に答えたダンであったが、直ぐに厳しい顔つきに変わった。
(・・・・今までどおり野盗程度であればいいのだが。)
だが、その思いは最悪の形で現実となった。
会議の席で村長が読み上げた手紙の内容を聞いた男たちは次々と怒りの声をあげた。手紙には、北エウロペ大陸のほとんどを制圧した神聖ガイロス帝国からの命令書が同封されていた。その内容は、西方大陸全土の諸部族たちへの不干渉を認めていたメルクリウス条約の一方的破棄と、彼らのような部族への無条件の服従を要求するというものだった。さらにこの命令書の最後には新皇帝ハインリッヒからの
「服従か、もしくは絶滅か」
の一文が記されており、その場にいた全員を激怒させるには十分すぎる内容だった。
さらに隣村からの手紙には、彼らが帝国軍に対して徹底抗戦する旨が記されていたことが、会議の場にいた全員に火をつけたのだった。
皆が口々に抗戦を叫ぶ中、唯一人ダン・フライハイトはおもむろに立ち上がると全員をなだめて言った。
「皆の衆は徹底抗戦を叫んでいる。その事に私も決して反対するものではない。だが、今度の相手は今まで撃退してきた野盗どもや他の部族ではない。ニクス大陸の帝国軍なのだ。連中の軍勢は数多く、そして強大だ。我々だけで戦った所で勝てる相手ではない。村長(むらおさ)さま、あの神父さまの様子を見ると隣村は恐らく・・・・。」
「うむ、自警団は10分足らずで打ち破られ、村も焼き討ちにされてしまったそうじゃ。」
どよめきが辺りを包んだ。隣村も野盗の襲撃が多く、自衛用のゾイドがそれなりに揃えられていた村であったが、わずか10分足らずで破れたとの話にはただ驚くしかなかった。
再びダンは続けた。
「聞いてのとおりだ、恐らくこの村だけでは同じ結果になる事は間違いあるまい。そこで提案がある。このことを至急他の村に伝え、援軍を呼ぶのだ。他の村とていずれ帝国の襲撃を受ける事くらいはわかっているだろう。ならば団結して迎え撃つのだ。」
その提案を拒む者はいなかった。ウインドコロニーは近隣の村々に伝令を出すと、準備していた収穫祭を取りやめ、直ちに迎え撃つ準備をはじめたのだった。女子供は近くの遺跡の大洞窟へ避難する準備が進められた。
だが、この徹底抗戦の構えに隣村の唯一の生き残りとなってしまったレオン神父は反対していた。彼は自分の村を襲撃した帝国軍の恐ろしさをその目で見てきたからである。彼はダンへ説得を試みていた。だが、ダンは覚悟を決めた表情で語り始めた。
「神父さま、確かに帝国軍は強大です。我々の力では善戦したとしても一度追い返すのがやっとでしょう。だが、このまま何の抵抗も示さずに降伏するわけにはいかんのです。」
ダンは続けた。
「今のガイロス帝国は、我々が知っていたそれまでの穏やかな国ではなくなっています。少なくとも彼らの本土、ニクス大陸では元来そうだったのでしょう。であればこそ、何の抵抗も示さず降伏すれば今の帝国は我々を虫けらのように扱う事でしょう。我々は今の帝国に対して、エウロペの民は一筋縄ではいかないことを教えなければならんのです・・・・。」
ウインドコロニーの呼びかけに対して、周辺各地から腕利きのゾイド乗り達が続々と集まってきた。彼らのほとんどはダンの呼びかけに応じたものであり、彼の顔見知りや、名前を聞いて駆けつけたものなどそれぞれであったが、彼らに共通していた思いは一つ、よそものの軍隊に好き勝手させるわけにはいかない、というものだった。
集合したゾイドは合計約50機、村人たちでもここまでゾイドが集合したのを見たことがある者はほとんどいなかった。
「すげぇ!これだけ大勢の連中を全部父ちゃんがあつめたのかよ!?」
バンは無邪気に父親のすごさに驚くばかりだった。だが、ダンは喜ぶ息子とは裏腹に厳しい表情だった。
(何とか数はそろったが、果たしてどれだけやりあえるのか・・・・。)
ダンは若かりし頃、動乱の南エウロペ大陸の紛争に参加して、戦争の何たるかを身をもって学んできた人物である。部族間の抗争とはいえ大規模になれば数百台のゾイドが激突する戦もあり、そのような激戦も幾たびもくぐってきていた彼は、最新の武装で固められているであろう帝国軍を相手に戦う事の無謀さを一番わかっていた。
「父ちゃん、オレももう大人になったんだ。オレも一緒に戦うぜ!」
だがダンは大きく首を振った。
「なんでだよ!オレはもう子供じゃ・・・・。」
ダンは息子の肩に手を置くと、穏やかな声で語り始めた。
「いや、お前には村のみんなを守ってもらうという一番大事な仕事を任せるつもりだ。分かるかバン。オレはお前を子ども扱いしているわけじゃない。もし帝国軍が俺たちの目をかいくぐってきたとき守る者が誰もいなかったらどうなる?村のみんながやられてしまったら俺たちが戦う意味がなくなってしまう。いいな、みんなを守ってくれ・・・・。」
いつになく真剣な父の言葉にバンは黙ってうなずくしかなかった。
その数時間後、見慣れない帝国の偵察ゾイドが村の上空に飛来すると、書簡を落として去っていった。
内容は隣村に宛てられたものと同じ降伏勧告だった。帝国軍の接近を知った村長は直ちに村人たちに避難を命じた。村人たちを避難させた村長は自ら踏みとどまった。戦う男たちを見届けるために。
翌朝、ついに地平線の向こうから土煙が上がった。戦闘準備に入る自警団たち。帝国軍は目前に迫っていた。
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