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第2章 外伝1 甦る虐殺竜
「一体どうなっているのだ!!」
格納庫に士官の怒鳴り声が響いた。
そこには作戦から帰還し、ようやく傷を癒したばかりの虐殺竜の姿があった。
「ドクトル、あなたは俺に言った筈だ。こいつは最強だと。少なくとも同クラスのゾイドでこいつに勝てる機体はないと」
「ところがどうだ!あの遺跡での戦いで、こいつはあの新型ライガーに負けた。ああ、もちろん俺の腕が未熟だった事は認めるとも。だが、俺の戦闘データを研究した連中の報告はなんだ!」
ドクトルと呼ばれた男は、まるで自分には関係の無い事のように言った。
「総合的にはこちらが有利だが、あの新型ライガー、そうそう正式呼称はブレードライガーと言うそうだが、に対しては相性が悪いということだったな」
帝国軍戦術研究班が分析したジェノザウラーとブレードライガーの戦力比較報告は要約すると"兵器としての総合力ではジェノザウラーが上だが、直接対決ではブレードライガーが優る"というものであった。つまり戦術研究班は、ジェノザウラーはブレードとは相性が悪いと結論付けたのだった。
「そういうことだドクトル!俺はこいつがあのライガーに劣っていると結論付けられた事に納得がいかんのだ!!」
「つまり、こいつをブレードに負けんように強化してくれ、ということかな?」
「当然だ!!」
相変わらずの態度で返事をするドクトルDに対してリッツの怒りは沸点に達しようとしていた。
そんなリッツの剣幕にあわてた技術班は警備兵を数人呼びこんでいたほどであったが、当のドクトルは涼しい顔であった。
「残念だが私はその提案に協力することができない」
「何だと!!!」
リッツの感情を無視したドクトルの言葉は、当然リッツを激怒させるのには十分過ぎた。
怒りの余り、ドクトルの襟を掴みかかったリッツは、周囲の警備兵にすぐさま取り押さえられた。
「リッツ君、このジェノザウラーは次期主力戦闘ゾイド、MBZとして開発するようにお偉方に言われて造ったものだ。あらゆる戦場で平均した戦闘力を求められるわけだから格闘戦に特化した相手との戦闘には不利になることもあることだろうよ」
「だったら何故改善しようとしない!!あんたは悔しくないのか!!!」
数人掛かりで抑えつけられながらもリッツは吼えた。
「悔しくないかと言われれば、悔しくないと言えば嘘になるさ。何よりこの私が新規に生み出したこのゾイドが、オーガノイドシステムを搭載したとはいえ、設計をやり直しただけの旧世代機に敗れたのは我慢がならない」
その時のドクトルの瞳には恐ろしく冷たい光が宿っているのをその場にいた全員が見て取った。そしてリッツ以外の全員が恐怖した。
「だったら何故!?」
「次の計画が進められているからだよ、リッツ君」
子供のような笑顔を浮かべて、うれしそうにドクトルは答えた。
「BF計画と呼称されているものでな、ジェノザウラーを特殊部隊用の機体としてさらに性能を強化したものになる。こいつはジェノの時と違ってお偉方からの要求が少ないからな。思った様に造る事ができる」
「それでそいつはいつ完成するんだ!!」
リッツの問いにドクトルは指を一本立てて答えた。
「一年だ。もしかしたらそれ以上掛かるかもしれんかもな。おおっと、それでは間に合わない、と言いたいのだろう?」
当然だ、と言う様に彼を鬼神のごとき表情で睨みつけるリッツ。そんなリッツを眺めながらドクトルは言った。
「心配するな。私の後輩のテューダーには連絡を入れてある。もうそろそろここに来るはずだ」
「奴は研究者としては変わり者でな。人が造ったゾイドを改造して強化することに生きがいを感じている奴だ。有名なところではセイバータイガーやお前さんが正月に叩き潰したあの2機もあいつの作品だよ」
リッツが騒ぎを起こしてから1週間後、ゾイドの改造強化の第一人者と言われるテューダー教授がようやくニクシー基地に到着した。
懲罰のため1週間の謹慎処分から解かれたリッツはその知らせを聞くや否や、疾風のごとき速さでテューダーの元を訪れていた。
「話はドクトルから聞いていますよ。まあ落ちついてハーブ入りのアイスティーの1杯でもいかがですかな、"アイスマン"どの」
久しぶりに自分のあだ名で呼ばれたリッツは、ようやく落ち着きを取り戻した。
テューダーは年は30弱と教授と呼ばれるには少々若い人物で、初対面の相手を彼の発する空気から和ませることのできる好人物であった。彼はすでにリッツの起こした事件についても耳に入れていた。
「まあ、ドクトルはああいった方ですからね。慣れていない方には面食らうこともしばしばあると思いますよ」
冷や冷やしながらリッツを見ていた職員達を尻目に、リッツを応接室に通したテューダーは、用意していたアイスティーを冷蔵庫から取り出すと、彼に勧めた。
二口ほどリッツがアイスティーを飲むのを見たところで、テューダーは話を切り出した。
「戦術研究班からの報告書や技術開発部からのデータも本国を発つ前に入手しています。あなたの仰りたい事もすでに耳に入れているつもりです」
そこまで聞くとリッツは身を乗り出して言った。
「それならば話は早い。小官は何としてもあのブレードという新型ライガーに勝ちたいのです」
熱く語り出す彼を手で制しながらテューダーは語った。
「あなたの要望は…、徹底的な格闘戦能力の強化でしたね。格闘戦ではそれに特化しているブレードのほうが有利な事は良く分かっているつもりです。」
「では…!」
喜びの表情を浮かべるリッツ。だがテューダーは落ちついた表情で言った。
「残念ながらそれだけでは上層部は認めてくれないでしょう。如何に試作機とは言え、ようやく完成にこぎつけたばかりの万能機をいきなり使い勝手の悪い機体に改造するというのですから。よほど説得力のある材料が無いと許可は下りないでしょうね」
基本的にジェノザウラーはレッドホーンの後継機として開発された機体である。となると予定されている相手は連邦軍の現MBZ、ディバイソンということになる。そしてジェノはディバイソンを相手にするには十分過ぎるほどの性能を持っていた。
なにより軍部からの開発部への一番の要求は、このジェノザウラーを大量生産、配備する為にパイロットへの負担を軽減し、複雑過ぎた機構の適度な調整を行う事であった。
そんな中で敵の新型高速機動ゾイドに対抗する為に格闘戦に特化した機体を作ろうとすることに意義を見出す事のできる人物が、上層部においそれといるとはテューダーには思えなかった。予算が付かなければ試作機の改造は行えないのだ。
だが、テューダーの目は子供の様に輝いていた。
「ですが勝算はありますよ。それがこのプランBです」
そういって彼はリッツに鞄から取り出した書類を見せた。さっと目を通したリッツからは思わず感嘆の声が漏れた。
「そうです、お察しの通りこのプランは格闘戦のみを強化するものではありません。あくまでもメインは荷電粒子砲の強化と速射を目的としたものです」
そう言うとテューダーは立ちあがってリッツに言った。
「それでは第4格納庫に向いましょう。準備はできています」
第4格納庫の中に入ったリッツの目に真っ先に飛びこんできたのはジェノザウラーの胴体とほぼ同じ大きさの巨大な増幅器とおぼしき物体であった。
「これはデスザウラー復活計画と平行して進められている、デスザウラー強化発展計画用に開発された荷電粒子コンバーターの試作機です。今のところ肝心のデスザウラーが仕上がっていない為、取りつけての発射実験も行えないので宙ぶらりんになっていたものを持ってきました」
驚きの表情を見せるリッツに対しての彼の講釈は続いた。
「元がデスザウラー用のコンバーターですからジェノザウラークラスであれば砲身に問題が来ない限りいくらでも連射が可能になるでしょう。威力に関してもこのサイズに搭載できるものとしては最大級のものになるのはまちがいないでしょうね」
今度は彼はクレーンに吊り下げられているマフラー状のスラスターを指差した。
「それでもコンバーターからは余剰エネルギーが大量に発生するものと考えています。そこでその余ったエネルギーは推進用として利用する予定です。もしこれに翼を装備すれば、余裕で飛行が可能になるでしょうね」
そしてテューダーはコンテナに収められた、巨大なシールド状の物体をクレーンで吊り上げさせた。
「そしてこれもデスザウラー用の改造パーツの一つです。元々デスザウラーはご承知の通り惑星Ziでも最高位の防御力をもつ超重装甲(スーパーヘビーガード)で覆われていますが、この装甲材の問題点にその名の通り“重い”という問題があります。」
「そこでこのシールドは軽量で強固な特殊チタニウム合金で出来ています。もちろんその防御能力は連邦の現行ゴジュラスで実証ずみですから」
「そしてこのシールドは様々な方向から加えられるであろう敵の攻撃を、本体に受ける前に未然に防ごうとする目的で造られたものですから、3次元的な機動が可能です。そして仕上げにこのシールドには接近戦用の巨大な鋏、エクスブレイカーを装備します。これによって攻防一体の兵器をジェノザウラーは得る事になるでしょう。これを左右に搭載する予定です」
さらに奥に進むと、すでにそこには武装を取り外された愛機の姿があった。
「仕上げに頭部には強化された複合センサーとレーザーチャージングブレードを、取り外す予定のロングレンジライフルの代わりに中距離火器を内蔵したウエポンバインダーを脚部に装備する予定です」
「……、それでこいつはどうなる?」
「最高速度は時速330kmを上回り、航続距離も従来機の倍以上。荷電粒子砲も大威力のものを連射する事が可能で、その上格闘戦能力は他の追随を許さないほど強力。同クラスはもちろん、LLクラスでさえもこいつを打ち破れる機体は今のところ存在しないと言っても過言ではないでしょう」
テューダーはリッツの目を見据えてはっきりと言った。
「つまり、正真証明の怪物に生まれ変わると言う事です」
それから僅か2週間後、シミュレーターでの訓練に没頭しながらその時を待っていたリッツのもとに、吉報が届けられた。彼はその報告を受け取るや否や再び疾風の様に第4格納庫へ向かった。
格納庫で彼を待っていたのは、まるで浮浪者のようなありさまになっていたテューダーと、凶悪な武装に身を包み、全身を深紅に染め上げられた愛機であった。
「こいつが……、まさかここまで姿が変わっていようとは」
完成予想図には目を通していたリッツであったが、やはりその実物を目の前にすると驚くほかなかった。
感嘆するリッツに異臭を周囲に放ちながらテューダーは言った。
「アイスマン、ご要望通りに仕上げておきましたよ。まだ起動テストはしていませんがね」
「いつテストをおこなうのだ?」
リッツは期待に満ちた目をテューダーに向けて言った。
「本格的なテストは明後日以降になりますね。なにせスタッフ全員が突貫で作業を続けていたものでしてね。私はこの様な突貫作業空けのひとっ風呂が一番の楽しみでして。こればっかりは邪魔せんでくださいよ」
「すまん、ならば少しばかり起動させるだけでいい。とにかくあいつに乗せてくれ」
「そう言うと思いまして準備はしていますよ。さあ、生まれ変わった愛機の力をあなたの肌で感じ取ってください」
その会話から30分後、格納庫を突き崩さんばかりに生まれ変わったジェノザウラーの咆哮がこだました。起動テストはわずか3分ほどで終了したが、改造に関わった職員達とリッツには生涯忘れ得ぬテストになった。
(これが生まれ変わったジェノザウラーか!)
テストを終えたリッツにテューダーが話しかけた。
「こいつにふさわしいコードネームは決めさせてもらっています。魔獣デスザウラー用の武装を装備していますから魔装竜です。正式名称は…、正直これと言った名前が浮かばないので、あなたの意見が聞きたいのですが」
テストによって興奮し、乱れた呼吸を整えながら彼は答えた。
「……、ブレイカー。そうだ、ジェノブレイカーだ。立ち塞がるもの全てを完全に粉砕し突き進む、こいつにふさわしい名前だ」
魔装竜ジェノブレイカー。西方大陸戦争において予備を含めて約10機ほどが生産され、超エースパイロットの愛機として数々の伝説を生み出した究極のジェノシリーズがここに誕生したのである。