
第3章 第4話
嵐、駆抜けて
アーサーたちがP.K.師団の追撃を開始したころ、それまで大混乱に陥っていた連邦軍はようやく組織的な反撃を行い始めていた。基地郊外に展開していた独自の命令系統を持つ特別部隊、通称白の師団と呼ばれる大統領親衛隊が、ロブ基地に到着したからである。
白の師団はP.K.師団同様、その役割から最新兵器が優先的に配備される特別部隊である。
戦力の中心として配備されているのは、旧ヘリック共和国軍のゾイドゴジュラスMk‐U量産型と同じカラーリングが施されたゴジュラスMk‐U限定型で、その戦力は通常のゴジュラスの数倍と言われていた。さらに脇を固める中型、小型ゾイドもアロザウラーや新鋭機ガンスナイパーが優先的に配備されており、その総合戦力は通常の師団の3倍にも達すると言われていた。
彼らは与えられた権限により混乱した命令系統を立てなおすと、直ちに基地そのものの事態の収拾を図った。そして実働可能な部隊には必要な権限を与え、P.K.師団の追撃に当たらせていた。
だが、P.K.師団は用意周到だった。不測の事態が生じた部隊も一部あったが、ほとんどの部隊は戦果を上げると、緻密に組まれていた撤退ルートを通り、ほとんど損害らしい損害を出さずにロブ基地から撤退していった。
しかし、どの部隊も特定の方向目指して撤退していくのは明らかだった。それはロブ基地から40kmほど北西にある中規模の湖、フェザー湖である。事実、その湖周辺を哨戒していた部隊は、命令系統が回復してからもまったく連絡が取れないままだった。
その湖に襲撃してきたP.K.師団の母艦があるのは間違いない。そう判断した臨時司令官は追撃を行っている全ての部隊に命令を下した。
「追撃部隊は、ただちにフェザー湖方面に向かえ!敵の脱出用の母艦はその湖周辺に潜んでいる可能性が極めて高い。」
アーサーの部隊は夜が白みかけるころ、ついに撤退中のハンマーロックとレブラプター部隊の補足に成功した。
もっとも、この時点でアーサーについて来ていた機体は数えるほどしかなかった。アーサーのブレードライガーは夜道を全力に近い速度で飛ばしており、かろうじてついて来ることができたのは、コマンドウルフやガンスナイパーなどの最高速度が時速200km以上の機体だけだったのだ。
「アーサー少佐、アーサー少佐!」
混成追撃部隊のなかで、唯一アーサー直属のコマンドウルフAC部隊の隊長であったミネルバ中尉はアーサーを止めようとしていた。
「おう、なんだミネルバか。それにしても、ついて来れたのは嬢ちゃんたちばっかりかい。野郎どもはよほどノロマな連中が多かったんだな。」
彼の言う通り、ついて来ていた機体に乗り込んでいたのは全員が女性だった。
「無理もありません!少佐が集められた方たちのゾイドのほとんどは、ブレードライガーに随伴する事を前提にしていませんでしたよ!私たちやガンスナイパーぐらいしかついて来れなくて当然です。とりあえず、後続が追いつくまで追撃を待ってください。このままでは我々だけが突出しすぎていて、反撃を受けかねません!」
だがアーサーはこの意見に耳を貸そうとはしなかった。
「んなことは分かっている!だが、後続の連中を待っていたら敵に逃げられちまうぞ。まあ、心配するな。俺たちが狙うのは敵の殿(しんがり)や撤退が送れている連中だ。包囲されないように注意してやればいい。」
ミネルバは、自分の上司のデタラメさにはこの一月の間でも散々振りまわされてきたが、この時ほどクレイジーのクレイジーたる由縁を思い知らされる出来事はなかった。
確かに、あの混乱のなかで冷静な対応を見せ、追撃部隊を即席で編成し、追撃に移った。こんなことは並の指揮官ではできない芸当である。だが、そこから先の行動を見ていると、とてもではないがあれほどの手腕を見せた人物のすることではない。
そこまで思考が至ったところで、彼女ははたと気がついた。アーサー少佐は単に自分が戦いたかっただけではないのかと。
即席で部隊を作り上げたのは自分だけで追撃を掛けるわけにはいかないと考えたのか、それとも彼と同じようにP.K.師団にやられっぱなしではお腹の虫が納まらないと思っていた者たちと一緒に殴りこもうとしていたのか・・・・。
恐らく、その両方なのだろう。自分の上司はそういう人物なのだから。だからこそゾイド乗りでありながら少佐になったのであって、それ以上は出世できない。いや、しようともしなかったのだろう。
そう考えるとだんだんと気が滅入ってきた彼女だったが、アーサーからのレーザー通信がその気分を鬱々とした吹き飛ばした。
「ため息なんかついている場合じゃないぞ中尉。ブレードは連中が近いと教えている。タイミングは指示するから、その時にはお前ら全員で連中に砲撃を加えてくれ」
それから僅かに2分後、彼らは撤退中のハンマーロック部隊の姿を捉えた。
「今だ!一気に叩き込め!!」
アーサーの号令と共にウルフACとガンスナイパーは一斉に火器をハンマーロック部隊に発射した。次々と炎に包まれるハンマーロック。その隙にアーサーはレーザーブレードを閃かせながらその部隊に斬り込んで行った。一度の攻撃で、ハンマーロックは2、3機まとめて斬り飛ばされていく。そしてウルフたちもそれに追いつくと、的確な攻撃でハンマーロック部隊を撃破していった。
だが、攻撃をはじめて数分も経つと部隊は間合いを取って彼らに反撃してきた。さらにこの部隊が少数で、しかも突出しすぎていたのを部隊長は見て取ると直ちに反撃に移った。
さらに運の悪い事に、近くを通りかかった部隊まで合流し、逆に包囲されてしまっていた。
「さすがは帝国軍最強のP.K.師団。立ち直りも早いな」
「少佐、感心している場合ですか!私たち、完全に包囲されてしまったんですよ!!」
すでに周りはハンマーロックとレブラプターの部隊に包囲されていた。こちらは10機足らず、相手は多数。この状況下で落ち着いていられるアーサーに部下たちは、ほとほと感心していた。だが、このままでは追撃に来たはずの自分達が殲滅されてしまう。
敵部隊はじりじりとにじり寄ってきていた。もはや逃げ場はない。
「しょうがねえ、俺が突っ込んで突破口を開くからついて来い!!」
その時、包囲網の一部から巨大な爆炎が上がった。
「少佐、いくらなんでも突出しすぎです!」
そう声を掛けたのは、アーサーの副官、バージル大尉だった。彼の率いていた後続の部隊がようやく追いついたのだった。
「バージル、ちょいとばかり遅くなかったか!?」
なだれ込んできた後続部隊と共に敵部隊を蹴散らしながら、アーサーは副官に言った。
「無茶を言わないで下さい。このタイミングで駆けつけられたのもオーガのパイロットの先導あっての事だったんですから。道に詳しい奴がいなかったらどうなっていたことやらだったんですからね!!」
バージルは愛機ディバイソンの17門突撃砲を逃げる敵機に撃ち込んだ。砲弾は脅威的な命中率で敵を撃破していく。
「おい、すげえじゃねえか」
感嘆の声を上げるアーサーにバージルは答えた。
「新型のゾイド補助のコンピュータシステム"ビーク"のお陰です。こいつを開発した西方ガイロスのトーマって奴には本当に感謝しています」
そう言っている間に、プロツェン・ナイツの部隊は早々と姿を消していた。
「クソ、なんて逃げ足の速さだ」
ようやく追いついたものの、火器が破損していたり、弾薬が装填されていなかったりで、砲撃に加われなかったジンライは、悔しそうに呟いた。
「よし、小僧。お前がそう思ってんなら追撃を再開するぞ。俺もまだまだこれくらいじゃあ足りねえからな」
アーサーは再び追撃の再開しようとした。その時、ミネルバはまるで子供を諭すように上官に進言した。
「了解しました少佐。ですが今度はお一人で先に出過ぎないで下さい」
アーサーの部隊がフェザー湖畔に辿り着いた時、すでにそこでは戦闘が開始されていた。
P.K.師団に追いついた白の師団は彼らに攻撃を加えていたのだ。戦況は白の師団が一見優勢であったが、P.K.師団は特定の線から先には彼らの進撃を許してはいなかった。そしてその間にも基地を攻撃した部隊は続々と湖畔に集結していた。
「隊長、連中が湖畔に集結していると言う事はやはりあそこに連中の母艦があるとみて間違いないようですが、なかなか姿を現しませんね」
アロザウラーのパイロット、ヘブナー少尉はゴジュラスMk‐Uに乗る上官に尋ねた。
「我々の存在を恐れて、まだ付近にいないのかもしれんが油断は禁物だ。あれだけの数を運んできたのだ、ホエールカイザーを上回る大型艦なのは間違いあるまい」
彼がそう言った直後だった。湖の水面が大きく盛り上がり、これまで見た事も無いほど巨大なゾイドがその姿を現した。
「なんだあれは!ホエールカイザーなんか比べ物にもならないぜ!!」
驚嘆の声を上げるヘブナー。するとその巨艦からいくつもの灯かりが燈るのが見て取れた。その直後、彼の周囲は大地がひっくり返るような地震に襲われた。巨艦に燈った灯かりとは、砲撃の光だったのだ。
「全員に告ぐ!一旦後退だ。あんなものを直撃してはこちらが持たん!」
巨艦から放たれた砲撃の威力はとんでもないものだった。彼らに損害こそなかったものの、着弾地点から約100mは跡形もなく吹き飛ばされていたからだ。
一方P.K.師団は近づく事のできない連邦軍部隊を尻目に、感嘆するほどの速度で湖畔に浮かぶ5隻の母艦に乗り込んでいった。
そしてアーサーたちの部隊が到着した時、部隊の収容を終えた母艦は、その巨体を連邦軍に見せ付けるように悠々と浮上し、飛び去っていった。
「なんてデカイ艦なんだ。ホエールカイザーがあれじゃあ子供だぜ」
連邦軍は呆然としながらその艦を見送るしかなかった。
「少佐!空軍の連中は何やってんですか!?」
いきりたつジンライを諭す様にミネルバは言った。
「空軍はP.K.師団の攻撃でまったく動けないわ。残念だけど私たちにできることはここまでね・・・」
この夜の戦闘で、ロブ基地、ひいては連邦軍の受けた損害は甚大なものだった。
兵員7000名が戦死または行方不明となり、負傷者の数は3万人にも及んだ。ゾイドの被害も大きく、陸軍は大小あわせて500機が何らかの形で損傷し、空軍に至っては要であったストームソーダーが200機近く、サラマンダーも約30機撃破され、そのほとんどがゾイド生命核に致命的な損傷を受け、戦闘不能となっていた。
それ以上に大きかったのが、指揮系統が破壊された事だった。西方大陸派遣軍の最高司令官であるサマービル元帥は助かったものの、全治2ヶ月の重傷を負った。さらに主だった幕僚たちのほとんどが戦死、または行方不明となってしまい、現場の指揮は4時間で回復できたものの、西方大陸全土の命令系統は懸命な努力がなされたにもかかわらず、丸2日間その機能が停止してしまっていた。
この混乱を見逃す帝国軍ではなかった。帝国軍はこの混乱をついて大規模な撤退を開始したのである。
本来であれば最前線の部隊が連携を取って追撃を行えていたところだったが、中央との連絡が途絶えたままで、なおかつ空軍からの本格的な支援が得られない状況では追撃を行う事は出来なかった。
そして連邦軍の命令系統が復旧したときには、すでに帝国軍のほとんどは自軍の制空権内まで撤退に成功しており、もはや追撃は不可能となっていた。
対する帝国軍、この場合P.K.師団はP.K.コング2機が撃破され、5機が中破。ハンマーロック20機とレブラプター18機の損害だけに留まった。これは投入された戦力の10%程度の損害であり、彼らが上げた戦果を考えると「オペレーション・ベスパ・ナイト」完全に成功したと言えるだろう。
そしてこの夜の戦闘を、帝国軍はロブ基地撃滅戦と呼び、大々的に報道し、連邦軍はロブ基地夜間奇襲戦、"7月の悪夢"と呼んだ。
この戦いから1週間後、ジンライは仮設司令部の置かれたビルに出頭を命ぜられていた。
「ジンライ・ヒヤマ伍長、入ります!」
応接室に入ると、そこには科学者らしい白衣の人物が数名と、大佐の階級章をつけた将校が待っていた。
「ジンライ・ヒヤマ伍長!君は本日付で曹長に昇進、そして特別実験G部隊への転属を命じる」
それだけ告げると、将校は退席していった。そして直立したままのジンライに初老のやせた科学者が話しかけた。
「私はオギータ研究所のビアスだ。君はこれからオーガのパイロットとして任務に当たってもらう事になる。これからよろしく頼むよ、ジンライ君」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします」
見るからにうれしそうな顔をしてジンライは敬礼を返した。そして、ビアスから退席の許可が出たため、彼は足取りも軽く退席した。
そんな彼を窓から見送りながら、助手のケンプは呟いた。
「ビアス教授、まさかあのオーガを操縦できる人間が、古代ゾイド人以外に存在するとは思いませんでしたよ」
「ケンプよ、これだから人生は面白い。とにかく我々はオーガノイドの秘密を解き明かし、到達点であるGIGA計画を推進しなければならないのだからな」
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