SEEDの影忍 荒涼の章
「者共、影忍の首を討てば値千金ぞ!討って我ら蜂牙の名を天下に示すのじゃ!」
スズメ蜂のような顎を与えられたメビウスが見事に陣形を整え、一個の生き物のように襲い掛かる。その数およそ二〇機。そのどれもが連合のトップガンもかくやというほどの腕前と、高度な連携能力を持っていた。まさに大群で獲物に襲い掛かる蜂の如しである。
彼ら蜂牙一門は当時高価であったMSをそこまで保有していた訳ではなかった。故にまとまった数の入手が可能であったMAメビウスに手を加え、彼らの運用に合わせていたのである。
「いくらMAといえど、こうも連携が見事であればあなどれぬという事か。しかし…!」
逃れきれぬと踏んだのか、ついにガリョウはその方向を変えて彼らに真っ向から挑んで行った。
「奴め、とうとう痺れを切らしおったか!」
一直線に飛び込んでくる影忍デュエルに一門は四方八方から飛び掛ってきた。黒地に褐色の白のラインを描いた彼らのメビウスはすれ違い様にニードルガンを撃ち込む。極小の針を一箇所に集中して撃ち込んで、被弾部をグズグズに破壊するその兵器は、実体弾を無力化するPS装甲に対してはまったく無力であったが、PS装甲の用いられていない機体にとっては恐ろしく脅威的な兵器である。事実、その攻撃によって影忍はその全身にいくつもの穴をあけられてしまった。
「頭目、手応えありました!」
飛び去りぎわに部下達からの報告が相次ぐ。やがて影忍は推進剤に引火して爆発を起こし虚空にその身を散らした。
「こうまで、こうまで脆いのか?これが本当に噂の影忍だったのか?!」
喜び勇む部下達を尻目に一人思考を巡らす頭目。やがて集合した部下達の機体を見た時、彼はある異変に気が付いた。どの機体にも何か粉末のようなものが付着していたのである。
「しまった!あれは囮であったか!」
頭目は強引に機体を起こし、部下たちから突然大きく距離を取った。驚く部下たちに彼は宣告する。
「おのれら!少しでも助かりたいと思わば機体を捨てて逃げよ!」
だがそれも無駄に終わった。付着物は特殊粉末火薬であり、一旦標的に付着すると一定時間後に爆発すると言うシロモノであった。断末魔の悲鳴のみを残して蜂たちは次々と散華していった。
「何という、何という事じゃ!まさかあ奴がこれほどとは…」
よくよく頭目が目を凝らせば、すでに影忍は遥か先に向かっていくのが見える。完全に仕事に失敗したのだった。
「無念、ここは再起を目指し…。?!」
その直後、彼の意識は永久に戻る事はなくなってしまった。虚空より僅か一瞬姿を見せた何者かに、機体諸共両断されてしまったからである。
(所詮こやつらでは足止めにもならぬか…)
その者の目は一直線に地球に駆け下りる影忍の航跡のみを見つめていた。
C.E.七一年。プラント側によってニュートロンジャマーという核分裂反応を抑え込む力を持った機械が地上に打ち込まれてから一年強が過ぎていた。エネルギー資源の殆どを宇宙からのマイクロウエーブと原子力発電から得られる電力に頼っていた地上はかつて無かった規模のエネルギー危機に直面。連合の主用各国においてさえインフラが崩壊するほどの被害をもたらしたのであるから、代替エネルギーの設備をまったく持たない小国などは文字通り崩壊の危機に晒されていたのだった。
その状況はこのとある某国でも同じであった。これまでエネルギー供給を隣接する大国に頼っていたこの国では、開戦以来電力が完全と言って良いほど絶たれ、国民は続々と難民化。また居残った人々も泥水をすすり草を食み、燃料には蔵書を用いねばならないような生活を強いられていた。隣国は自国の分の確保が精々でとてもではないが援助など望むべくもなかったのだ。
無論その国も現状をただ手をこまねいて見ていた訳ではなかった。この国ではかつて完成寸前まで漕ぎ着けながらも、途中で製作を放棄した試験型の発電用の核融合炉があったのだ。完成してもその出力は精々宇宙用の巡洋艦のそれ程度ではあったが、それでも急場をしのぐにはそれしか手が残されていなかったのだ。政府は乏しい財力と残された手段の全てを用いてこの発電所の完成を急いでいたのだ。
だが、あともう少しでどうにかなるというところで致命的な事態が発生した。核融合用に必要な高出力レーザー、その収束に必要な高精度レンズが何者かによって破壊されてしまったのだ。核融合は超高温を創り出さないと発生できない。水爆はこれを原子爆弾によって創り出すのだが、核融合発電においてはこれをレーザーによって創り出すのが一般的な方法とされていた。故にその肝心要のレーザーが死んでしまったのでは発電など夢のまた夢になってしまう。
当然要求されるのは代替のレンズである。ところがこのレンズは地球上では作り出す事が殆ど不可能で、これまではその生産はすべてプラントに頼っていたのだ。そういった次第で戦争相手からレンズの入手など不可能。在庫は軍がすでにその全てを新造艦のために確保しており、たとえ売ってくれると言うメーカーがあっても法外な値段をつけてくる事には違いはなかった。
だがそんなこの国に助け舟を出した者たちがいた。彼らは表立って名乗る事はなかったが、ナチュラルとコーディネーターの不毛な争いを終わらせる為に活動していると言う集団のプラント側の者たちと言う。そして彼らはそのレンズを届ける為に、幾多の人脈をたどってSEEDの影忍と呼ばれるガリョウにその仕事を依頼したのだった。
「このレンズが届く事を待ちわびる無辜の民が大勢居るのだ。何としても届けねば…」
ガリョウは膝に抱えたケースを見やった。この中には高出力レーザー用の高精度レンズが三〇枚入っているのだ。そしてこの三〇枚のレンズに、件の小国の命運が掛かっているのだ。
NJの影響下にある地球圏ではレーダーが殆ど無力化されているので、電波による探知は行えなくなっている。そのことは常に相手に姿を掴まれてはならぬ忍にとって実に好都合であった。だが勿論赤外線や目視による探知は健在。故に大気圏に突入する際も細心の注意を払って行わねばならぬことに変わりはない。影忍は大気圏を目前にし、目くらましのデフリを散布しながらも、目的地へ向けての侵入角を慎重に取っていた。
「よし、そろそろ落下傘の開き頃だな…」
ガリョウは寸手のところまで大気圏突入用落下傘を開こうとはしなかった。大気圏突入の直前こそがこちら側が最も無防備で、かつ敵にとっては最も狙いやすい瞬間だからである。
ガリョウは摩擦熱によって機体が発熱し始める直前まで様子を見ていた。実のところ蜂牙一門の追跡は振り切ったものの、別の何者かに付けられていると感じていたからだった。そしてその読みは的中した。侵入角を定めた直後に、背後から何者かが攻撃を加えて来たのだった。
「やはり!」
瞬時に反応し、影忍デュエルはその攻撃を紙一重で回避する。だが、この段階での回避運動の影響は大きかった。侵入角がずれてしまった為に、本来は直行コースであったのだが、その落下点が大きく逸れてしまう事になったのだ。
「こうなっては致し方ない…」
ガリョウは止む無く落下傘を開いた。とはいえその落下傘は大気中を下るためのものではなく大気圏に突入するためのものであるため上下さかさまに、傘を下に向けて使用するのである。強固な断熱材によって作られているその傘は大気との摩擦熱にも十分に耐え、確実に地上に降下する事が出来ると言う優れものであった。
やがて周囲は摩擦による赤い光の支配する世界に変わる…。
影忍が降り立ったのは中央アジア特有の乾ききった荒野であった。目的地である某国まではおよそ一〇〇〇里あまり。侵入角によっては地球の裏側になってしまうことも多々あることを考えれば許容できる範囲であった。
しかし某国までの道中が安易であるわけでもない。何故ならこの地域は元来動乱の続く土地であり、この度の大乱の為その情勢はC.E.に暦が変わって以来最悪のものになっていたからである。
「彼の国はここより北西の方角およそ一〇〇〇里。影忍であればおおよそ二日といったところか…。しかし急がねば」
隠密性を重視する忍にとって日中その姿を晒しての行動は、本来禁忌と言っても良いほどのものであった。しかし己の到着が一刻でも遅れるごとにその分民草の苦しみは続く訳である。もはや猶予はならなかったのだ。照り付ける強烈な日差しの中を全速で、しかし砂埃一つ上げずに道中を急ぐ影忍デュエル。まさにそれは選ばれた忍にのみ行える神技と言えるであろう。
夜通し駆ける事丸一日。ようやく荒野を抜け地球最大の湖畔であるカスピ海のほとりにまで辿り着いたガリョウは、切れかけた電力を補充せんため機体を隠し町に向かった。無論正体を悟られぬように行商に身をやつしてである。
(あれから振り切ったと思っていたが、未だに私を付けているものがいる…。相手は忍だな)
どこか様子の怪しげな店から重機用の蓄電池を買うガリョウ。この時勢であるから表立って電気を販売しているところは皆無であるし、もちろん扱っていても値段は法外なものである。しかし手段は選んでいられないのが今の彼である。多少の交渉は怪しまれぬ為行うが、それでもほとんど相手の納得する範疇の価格で購入する。
荷物をロバに載せるとガリョウは町から出る為にゆっくりと郊外に足を運ぶ。意図してにぎわう市場を抜けていくが、それでもガリョウの研ぎ澄まされた感覚は何者かが自分を付けているのを感じ取っていた。
やがて町の郊外に出たところで、ガリョウは借り受けたロバを持ち主に返し、荷物を古錆びた二輪駆動車に移す。そしてロバの主人が離れたところを見計らって、誰も居ないはずの方角に向かって話し掛けた。
「何故私を付けまわす?」
その直後、手前の地面から土煙が上がり何者かが弾丸のように飛び出してきた。その両腕には鋭利な鍵爪が備わっている。地中に潜んでいたところを見ると、どうやら土忍の一派のようであった。
無論そのような手が読めないガリョウではない。行商の衣服をその場に脱ぎ捨てるとその姿は忍のそれに変わっていたのだった。
「他にもいるのであろう。顔を見せたらどうだ?」
その直後、次々と周囲を囲むように方々から巨大な土柱が沸き起こる。その数八機。その全てがバクゥであった。そして最後に現れたのは彼らよりも一回り大型の機体。すなわちラゴウであった。最初に姿を現した忍は稲光のごとき疾さでそれに飛び乗った。
「やはり土蜘蛛衆であったか…」
ガリョウは辺りを見渡した。周囲は完全に包囲され蟻の這い出る隙間も無い。ましてこちらは機体から降りた生身である。常識的に考えればまず勝ち目はないであろう。
「如何にも我らは土蜘蛛衆。依頼によりお主の持っておるレンズを全て頂戴しに参った。大人しく渡せば命までは取ろうとは言わぬ…」
ラゴウを駆る頭目よりの宣告である。しかしこの状況下であってもガリョウは顔色一つ変え様とはしない。
「残念ながら応じる訳にはいかぬ」
「ならば死ねぃ!」
周囲を囲んだうちの二機の前足の爪がガリョウ目掛けて振り下ろされる。だがその瞬間、その四機は天高く舞い上げられていたのだった。
「何と!」
舞い上げられたバクゥは瞬時にその四足を切り捨てられていた。まさに神業である。そして大地に立ちはだかっていたのはまごう事なき影忍デュエルであった。
「ここでお主等の相手をしている暇はないが…、邪魔伊達するなら容赦はせぬ!」
ガリョウは不測の事態に備えて影忍を何時でも呼び出しに応じて動けるように用意していたのだ。あとは彼らが自ら掘りぬいた地中の穴を通って参上したという訳である。
機体に飛び乗る直前に、重機用の蓄電池はすでに機体の電源に接続されていた。電力に頼って動かねばならぬ機動忍者にとってもはや必須となった早合の威力は絶大。これはありとあらゆる規格の電極から機体に合わせた電力を吸い出せると言うシロモノである。そういった次第ですでに影忍にとって必要な電力は既に確保されていたのだ。
「ぬう、者共かかれ!」
号令に応じ一斉に飛び掛るバクゥ。だが影忍はそれに応じる構えを見せたところで煙幕を放つ。そして彼の姿を見失った土蜘蛛衆を尻目に、カスピ海を横断せんと水面を驚くほどの速度で駆け抜けて行ったのだった。
「大地での戦を得意とする土蜘蛛だが、さすがに水面までは追って来れまい。むしろ問題は…」
ガリョウは土蜘蛛衆以外に己を付け狙う者の位置を悟っていた。
「宇宙より付けねらい者よ、そろそろ姿を現したらどうだ!」
影忍は後方に向かって十字手裏剣を投げつける。そしてそれは金属音を立てて跳ね返されたのだった。
「流石は名高きSEEDの影忍。気付いておったか…」
僅か数分の間にカスピ海を横断した両者は、その湖畔で対峙した。その機体はこれまでのザフトの機体ではない。どうやら新型のゲイツであるらしかった。
「大気圏にて攻撃を仕掛けて来たのはお前か?」
「如何にも。私の名はアブラビ…。用件はあ奴らと同じ。レンズと貴殿の命が欲しい」
「ならば…」
両者共に刀を抜き放つ。ただ、相手のそれはカタールと呼ばれる形状の拳を包むような形状の刃であった。どうやら相手は中東で独自に発達した暗殺術を流派に取り込んだ中東忍者であるらしい。
「きぇぇぇぃ!」
奇声を発して仕掛けて来たのはゲイツの方であった。両の腕から繰り出されるカタールの速度は圧倒的。影忍はそれをかろうじて防げる程度でまったくの防戦一方になっていた。
「これが中東忍者…、何と手強い」
だがこのまま押されたままの影忍ではない。態勢を立て直すと片手にクナイを握り同じ二刀流で反撃に転じたのだ。
「こうでなくては…。こうでなくては面白ろうない!」
打ち合いが終わると次にゲイツは金属の輪を何枚も取り出した。
「あれは戦輪(チャクラム)!」
「左様、ましてこの数をどう避けて見せる!?」
ゲイツの腕から十数枚にも及ぶ戦輪が放たれた。まさにその軌道は変幻自在。さしもの影忍もその全てを回避する事は敵わず、装甲のあちこちを切り裂かれてしまった。
「あの数で全身を切り刻まれぬとは…、流石は影忍よ。だがこのような所で油を売っておっても良いのかな…」
「うぬっ!」
先ほどの土蜘蛛衆ならばともかく、彼ほどのような手慣れが相手ともなると容易に巻くわけにもいかない。それ故に相手せざるを得なかった訳であったが、一刻を争うのが彼の今の使命である。何としても決着をつけねばならなかった。
だが、そんなガリョウの焦りを見透かすように事態は急変する。何と水上までは動けないと思われていた土蜘蛛衆が追いついてきたのだった。
「案外早かったようだな」
「これもお主が用意すればこそよ。だが手柄は我等が頂く!」
「やれるものならな…」
(いかん、このままでは…!)
さしもの影忍も絶体絶命の危機に陥っていた。強敵中東忍者のみならず、土蜘蛛衆まで同時に相手をせねばならぬのである。ましてこちらはレンズを届けねば成らぬ身。沈着冷静を身の上とするガリョウといえども焦りに焦っていた。
だがその時であった。巨木ほどはあろうかと言う巨大な矢が影忍の周囲を囲っていたバクゥに襲いかかってきたのだ。
「お主ら手を引けぃ!」
丘陵の頂上に五機ほどの機影が見えた。その全てが紛れもなくMS。ただしそれはザフトのものではなかった。うちの四機は胴体の形状からしてストライクダガーと呼ばれる連合側の新鋭量産機であり、そしてその中央の機は何と連合最強と謳われるストライクGであった。しかしそのどれもが頭部に正面に十文字の覗き口の開けられた円筒状の仮面を被っている。
「何奴!?」
土蜘蛛衆の一人の問いに謎の一団の大将は凛として答えた。
「我らは欧州忍軍!」
「欧州忍軍とな?!」
「となればあれはミミズク男爵!」
ざわつく土蜘蛛衆を無視してミミズク男爵はガリョウに話し掛ける。
「影忍よ!この場は我々が預かる。早々にそのレンズを届けるがよい」
「かたじけなし!しかし何故手を貸してもらえるのだ?」
「彼の国とは浅からぬ縁がある。故にだ」
その答えを聞くと影忍は刀を納めて某国へ向けて進路を向けた。当然追い縋らんとする他の一同。だが彼らの前に欧州忍軍が立ちはだかる。
「ここは私の顔に免じて引いては貰えぬかな?無論悪いようにはせぬ…」
「影忍のみならず欧州忍軍、男爵まで相手にせねばならぬのでは致し方ない。ここは手を引かせてもらおう」
男爵の言葉に中東忍者は渋々と従う。そして煙幕を放ってその姿をくらましたのだった。だが、もう一方の土蜘蛛衆は引こうとはしない。それどころか口に咥えた刃を向けて臨戦態勢に入っていた。
「ここで手を引けば土蜘蛛衆の名折れ。ここはまかり通させてもらおうぞ!」
頭目の号令と共に挑みかかる土蜘蛛衆。
「問答無用と言う訳か…。ならばその身を持って欧州忍軍の恐ろしさを知ってもらおう」
男爵が剣を構えたのを合図に、ダガー四機はその四方に動いた。そして身動き一つしないままにダガー四機は男爵の周囲を超高速で回転し始めたのだった。
「受けよ!ダイヤモンド・ダストトルネード!」
次の瞬間、彼らの周囲から凍てつく冷気を伴った竜巻が巻き起こった。竜巻目掛けて飛び込むバクゥたちはことごとく巻き上げられ、凍りつき落下して行く。そして大地に叩きつけられるとガラス細工のように粉々に砕け散っていったのだった。
「おのれぇぇ!」
頭目のラゴウはその冷気を掻い潜って竜巻の中心に踊り込む。回転の中心は無風であり、それは同時に相手の弱点に跳び込んだ事を意味するからであった。
「稲妻重力落とし!」
ラゴウは口元に咥えたビームサーベルを真下に向けて落下する。だが、男爵はまるで動じる様子も無い。
「突破したのは見事であったが…、所詮蜘蛛ではそれまでよ」
その直後、ダガーたちは回転を止めて方々に散る。すると竜巻は勢いを弱めてしまった。だがこれは頭目にとって好機を表すものではない。逆に落下コースにいたために分散した風の煽りを受けてきりもみに揉まれてしまったのだ。
「し、しまった!」
だがその事に気がついたときは既に手遅れだった。慌てて態勢を整えようとしたその時にはすでにラゴウは男爵の一撃によって真っ向から両断されていたのである。「大人しく手を引いていれば良かったものを…」
異変に気が付いた住民達が駆けつけた時には既に全ては終わっていた。欧州忍軍はその場違いなほど強烈な吹雪と共にいずこともなく姿を消していた。そして辺りに残されたのは凍りつき粉々に砕けた土蜘蛛衆の残骸であった。
それから数日後。その某国の夜は一年振りに電気の灯かりによって輝いていた。ようやく調整を終えた核融合炉にようやく火が灯り、些細なものではあったが街に電気を供給することができるようになったのである。
そしてその光景を温かく見守る一団があった。影忍と欧州忍軍である。
「男爵殿、ようやく灯が灯りましたが…、逆に近隣の国より狙われるようなことにはなりませんでしょうか?」
機体同様の仮面を被ったミミズク男爵は達観したような声で答える。
「それであらば心配無用。この国は連合への協力を明言しておる。もう間もなく連合は宇宙にてザフトとの決着を付け様と言う時期であり、周辺国からは半ば強制的に軍事力を供出させておる。故に宣伝としても軍事としても当面この国に手を出すものなどおりはせぬ。それに…」
「それに?」
「いずれにせよこの戦乱、どちらが勝つにせよ終わるであろう。そうなれば自然とNJも解かれ、世界は完全ではないにせよ落ちつくところに落ちつく」
「私もそうなることを願って止みません」
両者は天を仰ぐ。雲一つ無き満天の星空ではあるが、その空の向こうでは未だ止む事無き戦火の炎が上がっているのだ。そしてその一角では創生の光と名付けられた最終兵器が今正に完成せんとしていたのだ。
地球とプラント、否、ナチュラルとコーディネーターとの決着の時は刻々と近づいている。果たして勝つのは、生き残るのはいずれの種族であろうか?歴史を繋ぐのか、それともピリオドが打たれてしまうのか。ただ彼らは闇の住人として見守るばかりであった…。